慰安婦発言で憂うつな初訪米?

慰安婦発言で憂うつな初訪米? 
 安倍晋三首相の4月26日からの初訪米は気の重い旅になりそうだ。
太平洋戦争中の従軍慰安婦問題で、募集の強制性を「証言や裏付けが無かった」と否定した首相の発言に対する米議会、世論の批判が収まらないからだ。
 日系のマイケル・ホンダ米下院議員(民主党)らが提出した従軍慰安婦をめぐる謝罪要求決議案は、既に共同提案が80人近くに達した。決議案は過去にも提出されたが、共和党主導の議会では取り合われなかった。
 ところが昨年十一月の米中間選挙で上下両院とも民主党優位となり、下院外交委員長に民主等大物のラントス氏が就任。ラントス氏は第二次世界大戦ホロコーストユダヤ人大量虐殺)の生き残りで、人権や戦争責任問題には殊更敏感な人物。首相の靖国時神社参拝にも「日本の歴史的健忘症を示す」と厳しく批判していた。
 加えて首相が国会答弁で「決議があったからといって、謝罪することはない」と発言したり、下村博文官房副長官が旧日本軍の関与を否定したことがが火に油を注いだ。謝罪決議案は五月に採決の方向だ。
 首相は従軍慰安婦の募集で「行きたくないが、結果としてそうなった」という「広義の強制性」は認めながらも、「強引に連れて行かれた」という「狭義の強制性」は証拠がないと主張している。これに対し、米紙ニューヨーク・タイムズは旧日本軍の関与を指摘してきた吉見義明・中央大教授のインタビュー記事を大きく掲載するなど、首相批判を強めている。
 ワシントン・ポスト紙、米三大ネットワークのCBSテレビなども慰安婦問題を取り上げた。
 妄倍首相は今月三且夜、ブッシュ米大統領に電話し、従軍慰安婦問題で「おわびを表明している」と釈明。首相が自らの発言をめぐり、わざわざ大統領に電話するのは極めて異例のことで、米国内の動向に神経質になっていることを裏付けた。
 従軍慰安婦問題は女性の人権問題。「人権」は自由や民主主義と並んで米国が最も重視する価値観の一つで、首相発言は米国世論を刺激した。
 首相はワシントン郊外の米大統領山荘ヰヤンプデービッドで、日米首脳会談に臨む。二〇〇一年六月、小泉純一郎首相(当時)は同山荘を訪れ、ブッシュ大統領とキャッチポールをして信頼関係をアピールしたことが、外交手腕への不安を一応ぬぐい去った。
 今回は従軍慰安婦問題で火が付いた中での初訪米。安倍首相を待ち受ける米国の視線は殊のほか冷ややかかもしれない。
共同通信編集委員 井原康宏)