世間とはつまり、貴方の事でしょう?

橋下徹弁護士が光市母子殺害事件の裁判における弁護士団の方々から提訴されました。
それを受けて、橋本弁護士が次のような意見表明をされています。
橋下徹のLawyer’s EYE : 私が提訴されたことにつきまして
「世間」という言葉を実に15回も使用しておきながら、結局「世間」とは一体何なのか、私には全く理解出来ませんでした。そこでハッと思い出されたのが、私が高校の時に耽溺した「人間失格」のこの一節です。


left HOPE.

「しかし、お前の、女道楽もこのへんでよすんだね。これ以上は、世間が、ゆるさないからな
 世間とは、いったい、何の事でしょう。人間の複数でしょうか。どこに、その世間というものの実体があるのでしょう。けれども、何しろ、強く、きびしく、こわいもの、とばかり思ってこれまで生きて来たのですが、しかし、堀木にそう言われて、ふと、
「世間というのは、君じゃないか」
 という言葉が、舌の先まで出かかって、堀木を怒らせるのがイヤで、ひっこめました。
(それは世間が、ゆるさない)
(世間じゃない。あなたが、ゆるさないのでしょう?)
(そんな事をすると、世間からひどいめに逢うぞ)
(世間じゃない。あなたでしょう?)
(いまに世間から葬られる)
(世間じゃない。葬むるのは、あなたでしょう?)

 汝は、汝個人のおそろしさ、怪奇、悪辣、古狸性、妖婆性を知れ! などと、さまざまの言葉が胸中に去来したのですが、自分は、ただ顔の汗をハンケチで拭いて、
「冷汗、冷汗」
 と言って笑っただけでした。
 けれども、その時以来、自分は、(世間とは個人じゃないか)という、思想めいたものを持つようになったのです。


――太宰治人間失格」より

今の橋本氏に対してこれ以上に痛烈な言葉は存在しないでしょう。今更ながら太宰治の偉大さを再認識した次第であります。