論争に「勝つ」のも考えものですねぇ、西岡力さん

よくわかる慰安婦問題

よくわかる慰安婦問題

西岡氏がまーたなんか新しく従軍慰安婦本を出しているので、ワクワクしながら目を通すが、2/3以上は「吉田証言はウソだー」「慰安婦は売春婦だー」「強制連行はなかったー」などの今までに散々使い古された否定論を飽きもせずにのっけてるだけなので、非常に退屈である。これなら小林氏の漫画の方がまだマシであろう。色んな方面の方に対しても非常に残念な出来ですが、ついでなんでこれを肴にちょいとドラマちっくにエントリを仕上げてみますか。内容についてのツッコミは気が向いたらしてみますわ。

はじめに
この本は大きく二部に分かれている。
 第一部では、一九九二年から行われてきた慰安婦問題をめぐる論争の歴史を取り上げる。
ここでは日本の中の、事実を曲げて日本を貶めようとする反日勢力(とあえていいたい)
との論争について述べる。
 この論争は主として九二年ころから翌九三年まで私を含む一部専門家の間で激しく続き、
「強制連行は証明されない」ということでほぼ決着した。
(「よくわかる慰安婦問題」 著:西岡力 p.2)


西岡氏はこの「決着」はいわゆる否定派の勝利だとして、本書で散々繰り返して強調しまくります。

国内における論争は私たちの勝利で終わったのだが、
(同書 p.4)

国内の論争ではこちらが勝っていた
(同書 p.5)

ここまで詳しく見てきたように、一九九二年から九三年にかけての第一次慰安婦論争は、
権力による強制連行はない、という私たちの側がほぼ全面勝利していた
(同書 p.114)

事実関係の論争はほぼ勝ったが、広く論争の結果を伝えるという広報戦では負けていた。
(同書 p.115)

九二年以降続いてきた、権力による強制連行があったかどうかという論争に於いて、つ
いに私たちが勝ったのだ
(同書 p.135)

九二年の第二ラウンドは、事実関係解明では勝ったが、広報戦では負けていた
(同書 p.137)

本書の前半で見たように、日本国内での論争ではまだ完全ではないとはいえ、こちら側
が勝った
と思う
(同書 p.193)


ざっと見ただけでも7度も「勝った勝った」と喜び勇んでいる。無邪気なものだ(笑)
だが、この論争に「勝って」しまった事で何が起こったのか。西岡氏の著書から見てみよう。

ここで、「新しい歴史教科書をつくる会」に代表される良識的学者らが立ち上がり、産
経新聞も論争に加わり、テレビや新聞、雑誌などで再び激しい論争が起きる。私も、九二
年段階での論争の成果を広く伝える形で、強制連行はなかったと論陣を張った。政界でも、
中川昭一安倍晋三など当時の良識派若手自民党議員が「日本の前途と歴史教育を考える
若手議員の会」を結成して、真剣に問題と取り組みだす。この段階で、朝日新聞や左派学
者らは、連行における強制だけが問題でないとして、慰安所の生活などにおける強制性を
強調しだすが、説得力が乏しく、二〇〇〇年代に入り、日本の中学歴史教科書からは慰安
婦強制連行の記述が削除される。
(同書 p.4)


安倍晋三氏、中川昭一氏など、代表的な歴史修正主義の政治家がモロに彼らの影響を受けることになり、中学の教科書からも削除される。そして今年になってマイク・ホンダ議員が米下院に慰安婦決議を提出。安倍総理が「当初定義されていた強制性を裏付けるものはなかったのは事実」「慰安婦狩りのような官憲による強制的な連行があったと証明する証言はない」等と発言。しかしこの発言は、ワシントン・ポストからこのように厳しく非難されてしまう。

拉致問題についての日本の要求に対して、なかなか応じようとしない北朗鮮に、安倍
が苛立ちを感じているのはわからないことではない。しかし、声高に北朝鮮を非難しな
がら、第二次大戦中、少なくとも十数万の朝鮮の女性を拉致したうえ、彼女らを強姦し、
性奴隷にした日本自身の国家犯罪に対しては、その責任を回避するばかりか、そのよう
な事実があったことさえ否定しようとする安倍の態度は、単に理解しがたいということ
を超え、不愉快きわまりないことだといわざるを得ない。
(同書 p.193)


さらには林博史氏らが4月17日、日本外国特派員協会において「東京裁判に提出された各国検察団の証拠資料の中から、占領支配したアジアの女性が日本軍に強制的に慰安婦にされたことを示す尋問調書」を公表。安倍総理はいよいよ追い詰められる。
外国特派員協会で公表された資料 - 解決不能
これらの大逆風を受け、安倍総理は強制性についての発言を封印。しかし既に時は遅し、

安倍は今までの総理とは違う、今までの日本の態度を覆そうとしているのではないかと疑われて、やはり決議は必要かもしれないということになって、逆に急に賛成者が増えてしまった。
(同書 p.196)


安倍総理の発言で大自爆。賛成者を増やしてしまった。(西岡氏は反論しない外務省が悪いと主張しているが、誰がどう見ても安倍総理の自爆である)。しかも否定派が声高に主張してきた「強制連行はなかった」という必死の訴えも、米議会調査局の報告書では、この有様である。

2007年に行われた、慰安婦の集め方は強制的だったかどうかという議論は、
「そもそも慰安婦たちは自発的に来たのかそうでないのか」という大きな問題を曖昧にしてしまった。
これに関してはいろいろな証言からも、殆どの慰安婦たちは非自発的に慰安所
来たことは明らかである。非自発的という言葉を「騙されて慰安所に来たものも含む」と定義するならば。
心から自発的に慰安所に来た女性はごくわずかに見える。
http://japanfocus.org/data/CRS%20CW%20Report%20April%2007.pdf


「強制連行かどうかの議論は、大きな問題を曖昧にしてしまった」と、否定派が「勝った勝った」と欣喜雀躍している『強制連行の有無』の議論は、別に大きな問題ではないとまで断ぜられてしまった。今まで血を吐く思いで必死のプロパガンダに勤しんできた否定派は、あまりのショックにこの文言から必死で目を背け続ける。こういった否定派や安倍総理の壮絶な自爆の結果、なす術も無く米下院では決議案が採択されてしまう。彼ら否定派が必死に「強制連行は無かった」と叫び続け、それを政治家、それも総理大臣にまで浸透させて来た事が却ってアダとなり、よりによって同盟国のアメリカで慰安婦決議が採択されるという彼らにとって最悪の事態を生んでしまった。安倍総理の発言が無ければ、

05年末までホワイトハウスでアジア問題を扱っていた
グリーン前国家安全保障会議上級アジア部長は、
「先週、何人かの下院議員に働きかけ決議案反対の合意を取り付けたが、
(安倍発言の後)今週になったら全員が賛成に回ってしまった」と語る。
国務省も今週に入り、議員に対し日本の取り組みを説明するのをやめたという


こういった事態も起こらず、米下院での採択もお流れになっていた可能性は高いと言えるでしょう。つまり、彼らが90年代から現在に至るまでやってきた慰安婦問題における取り組みは、「米下院での慰安婦謝罪要求決議案採択」という形で見事に結実したのです。これは肯定派だけでは不可能だったでしょう。否定派が総理に「強制連行は無かった」と吹き込んだ事がこの結果を生んだのです。なんという歴史の皮肉…。私はこの決議案採択という結果に思いをはせる時、まるで三国志全巻やスラムダンク全巻を一気読みしたかのような感動を覚え、思わず目頭を押さえずにはいられません。