ある人物に対する考察

 とにかく彼が攻撃対象者と見做している相手からの謝罪を求めているのは確かだが、それが実現するとは到底思えない。彼の膨大なまでの知識とその衒学趣味は、脆弱な自我を防衛するためだったという極めてありふれた個人的命題に貶められてしまった。貶めたのは他でもない自分自身。自らの世界を構築し、それを破壊する。不謹慎を承知で言わせてもらうと、フィクションならば私は喝采を上げていただろう。
 彼を救ってくれるはずの様々な防衛壁や緩衝材は、今や彼を毀損せしめるための凶器へと成り果てた。それが道具である以上、彼が何をどう使おうと自由だ。が、彼がもはや己を守れていないと気づかせるために鈴を付けに行く人間は、今の所見当たらない。彼はそれを欲しないだろう。
 やはり人間は何かの誰かの役に立っていなければ生の実感を得られず、狂うのだろうか。狂気とは孤独の隣人なのだろうか。